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アムゼルくんの世界 Die Welt des Amselchens 

トワイライト

シナ近代文学の代表作に、マオ・ドンの『子夜』という小説があります。上海の民族資本家が没落してゆくさまを、いわゆる「全体小説」的手法で描いた、おそらく「近代」長編小説としては空前絶後の作品でしょう。

その英語訳がでたとき、タイトルは『Twilight』と訳されました。半分正解でした。

「子夜」とは、「夜明け前の暗闇」、つまりもうすぐ暁を迎えるという時をあらわす言葉です。日本語で言えば「暁闇」(ぎょうあん、あかつきやみ)に近い言葉です。

それは「革命前夜」というアレゴリーでもありました。


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しかし英語の「Twilight」は、「薄闇」、「薄明」という意味合いしかなく、それは明け方にも夕暮れにも使用する言葉です。だから、半分正解というわけです。

ドイツ語では、「Dömmerung」がまさにそれに相当します。しかしドイツ語では、「Morgendömmerung」(朝の薄明)、「Abenddömmerung」(夕方の薄明)というふうに時間を特定する言葉をくわえて意味を明確にすることができます。

一語で意味の明確化ができないのは、ゲルマン語系の特徴でしょうか?

いずれにせよ、それは文化的差異にはちがいありません。英語を使用する人たちには、コンテクストで朝であるか夕であるか判断するしかないのでしょうね、不便なことです。

それでも、同じ現象を眼前にしながら、用いる言葉によって世界の切り取り方がちがってくることを知る、このことこそ外国語学習の醍醐味といえるでしょう。つまり外国語を学ぶことの意味は、自国文化とはことなる世界観を知ることに置いてこそ意義があるのではないか、と思うのです。

それにしても、日本語の「黄昏」(たそがれ)が表出する気分を、英語人はどうやって理解するのでしょうか?


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by amselchen | 2008-09-19 05:26 | Sigma 17-70/2.8-4.5